<薬と歯科治療>
歯科以外の病気で患者様が飲んでいる薬が歯科治療に影響を与えることがある。どんな薬が歯科治療に影響するのか、またどのような影響を及ぼすのか知っておく必要がある。
抗血栓薬
血液を固まりにくくし、血栓で血管が詰まるのを防ぐ薬。
出血が止まらなくなる点に注意が必要。
狭心症や心筋梗塞の恐れがある人、脳梗塞を起こしたことがある人が服用している可能性がある。
歯科治療では出血する場面が多いため注意が必要だが、だからと言って歯科治療のために服用をやめると血栓症につながる恐れがあるので勝手に服用をやめてはいけない。
医科や歯科のガイドラインでは抗血栓薬の服用を続けたまま抜歯を行うよう推奨されている。ワーファリンの服用を中断して抜歯した人の約1%(493人中5人)が、血栓が原因の発作を起こし、その80%(4人)が亡くなったという報告もある。
また抜歯やインプラント埋入などの手術の場合、口腔内では止血できたとしても手術が終わってから皮膚に内出血を起こして顔や首に青あざができることがある。
内出血は通常1~2週間で自然に消えるが、事前に説明しておくと良い。
[抗血栓療法患者への止血方法の例]
・局所止血剤+縫合+圧迫止血
・プラスチック保護床
・パック
[主な抗血栓薬の経口薬]
ワーファリン/バイアスピリン/アンプラーグ/プラビックス/プレタール など・・・
ビスフォスフォネート製剤
骨を増やして骨折の予防に使う薬。
長期間服用している人は顎骨壊死のリスクがある。
骨粗鬆症の予防をしている人や骨折したことがある人、ステロイド治療を受けている人が服用している可能性がある。
ビスフォスフォネート製剤による顎骨壊死のメカニズムはいまだ不明な点も多いが、以下のように考えられている。
人の骨は破骨細胞が古い骨を吸収し、骨芽細胞が新しい骨を形成することによって骨のリモデリングが行われているが、ビスフォスフォネート製剤を服用するとビスフォスフォネート製剤が破骨細胞に特異的に取り込まれ破骨細胞が死んでしまう。破骨細胞が死んで少なくなると連動して起こる骨芽細胞によるリモデリングが妨げられ骨密度が下がり、刺激を受けると骨折や顎骨壊死が起こりやすくなる。
また骨のリモデリングの期間は3カ月といわれているので、現在服用していなくてもいつからいつまでの期間服用していたかなど情報を得る必要がある。歯科治療前の休薬期間は少なくとも3カ月が望ましい。
(ステロイド治療・・・喘息や関節リウマチ、アレルギーなどの治療のひとつ。ステロイド薬は抗炎症作用と免疫抑制作用がある。)
[主なビスフォスフォネート製剤の経口薬]
フォサマック/ボナロン/アクトネル/ベネット/リカルボン など・・・
抗てんかん薬
脳の興奮を抑えて、てんかんの発作を防ぐ薬。
抗てんかん薬の中で、フェニトインが入った薬を長期間服用した場合、副作用として50%以上の確率で歯肉に腫れが見られる。
予防にはケアが必要で、歯石や補綴物の不適合などが歯肉への刺激になり腫脹を招きやすくなる。
フェニトインの長期服用による歯肉増殖は炎症症状に乏しいのが特徴だが、清掃状態が悪いと発赤、炎症症状が生じるので注意が必要。
歯肉増殖は必ず歯のあるところに発症し、場合によっては歯肉切除術を行うこともある。
[主な抗てんかん薬の経口薬]
アレビアチン/ヒダントール
カルシウム拮抗薬
血管の収縮を抑えて血管を広げ血圧を下げる薬。
高血圧の治療をしている人が服用している可能性がある。
副作用として歯肉の腫脹や増殖が起こることがある。
カルシウム拮抗薬を長期服用している人で歯肉の腫脹が起こってしまう割合は約20%と言われている。
抗てんかん薬と同様、口腔清掃不良や補綴物の不適合などで悪化する恐れがあるのでメインテナンスが大切になる。
歯科を受診する有病者の中で血圧が高く、高血圧症の治療を受けている患者様はきわめて多い。その治療は生活習慣の改善と降圧薬の投与だが、降圧薬の中でもカルシウム拮抗薬を選択する症例は多く、ニフェジピンやアムロジピンなどのジヒロドピリジン系カルシウム拮抗薬はその代表的な薬剤となる。
[主なカルシウム拮抗薬の経口薬]
アダラート/アムロジン/ノルバスク